画角について Angle of view

今の時代(2021年現在)、スマホやコンパクトデジカメで簡単にいい写真が撮れます。

加工も簡単にできるアプリもあり、綺麗な写真は誰にでも手軽に作れるようになりました。とてもありがたい世の中になりました。

もちろんこれで十分とも言えますが、写真に興味が湧き、もっといい写真を撮りたい、いわゆるカメラで写真を撮ってみたいと欲が出てくる人もいるかと思います。

 

すると親しい人に尋ねてみたり、インターネットの記事やYou Tube、カメラ雑誌などを読んで、自分が気に入ったカメラを買うことになります。おそらくはデジタル一眼レフや一眼レフなど、ちょっと値段も張るカメラを手にして撮ってみることになるでしょう。

そこで今まで撮っていた写真とは違う世界を知ります。

そのカメラで自分の好きな被写体を探して、頑張って撮りはじめます。

人物、動物、電車、自然、何を撮ってもスマホとは違った写真に満足することと思います。もちろんスマホの写真も悪くはないですが、カメラのレンズを通して撮った写真は違う味があるものです。

 

そして、さらにいい写真を撮るためには露出や構図など、色々勉強することになります。覚えなければならないことはたくさんありますが、写真はやればやるほど楽しくなっていきます。そうなってくるとだんだん写真が難しいことに気づいていきます。

もっとこう撮りたいという欲も出てきます。

そうなってくると、初めはカメラに付属していたレンズで撮っていきますが、このレンズをいろいろ交換することによって、違った写真が撮れることを知ります。知ってしまうと欲しくなるのが人の性です。

一部の人はこれをレンズの沼と呼んだりします。私も例に漏れず、この沼にハマっていますがここでは省略させていただきます。

このレンズを選ぶ際に話題になるのが、耳にしたことがあるかもしれませんが、35mmとか50mmとか、はたまた600mm望遠といった言葉です。これらはレンズの焦点距離を表す言葉で、数字が大きくなるほど写る範囲が狭くなり、小さくなるほど広くなります。

例えば、部屋の中で同じ位置に立って12mmのレンズで写すと、部屋のかなりの範囲が写ります。

 

焦点距離12mm

 

これを24mmのレンズに換えるとこうなります。

 

焦点距離24mm

 

さらに35mmにするとこうなります。

 

焦点距離35mm

 

さらに50mm。

 

焦点距離50mm

 

100mmのレンズにすればもっと部屋の隅の一角だけが写り、さらに300mmなどにすれば部屋の隅に置いた観葉植物の葉っぱだけが写るといった感じです。もちろん、レンズのmm数を変えても同じ範囲をとることはできます。

どうするかと言いますと、、、そうです、自分が前後すればよいのです。

35mmで撮影した範囲と同じ範囲を85mmで撮ることもでき、その場合は自分が下がればいいことになります。ただし部屋だと下がるには限界もあります。

ただ同じ範囲が写っているからと言って、同じ写真になっているかというとそうではありません。

ここが写真、カメラ、レンズの面白いところです。レンズには屈折率がそれぞれあり、同じ範囲を切り取っても写り方が違うのです。さらにはレンズの種類によっても違い、カメラの性能によっても違い……(笑)。

なので、写真、カメラの愛好家はカメラやレンズにこだわり、自分の撮りたい写真のために、機材の沼にはまっていくのです。

もちろん最終的にはいい写真を撮れるかは撮る人の腕によるのですが。

 

話はずいぶんと逸れてしまいました。今回のテーマは画角です。

先ほども書きましたが、いざ写真を撮ろうというとき人は画角で悩みます。何mmのレンズがいいんだろう。写真の先輩方に聞くと、だいたい「好きなレンズがいいよ」と言われます。好きなと言われてもよくわからないですよね。

ここでよく聞く言葉が、標準レンズという言葉です。これが曲者です。

一般的に標準レンズといった場合は、35mmフルサイズ換算(これもむつかしいですよね。説明するのがとても大変なので省きます)で35mmか50mmのことを一般的には指しますが、実は決まりはありません。写真家によって私の標準レンズは35mmだという人もいれば、135mmだという人もいます。

ただカメラやレンズの会社は狭義の意味で、50mmを標準レンズとしているようです。こ

れは、50mmの画角が人間の視野に一番近いと言われているからです。

心の眼でシャッターを切ったと言われるフランスの写真家のアンリ=カルティエ・ブレッソンは自分の眼に一番馴染むからと50mmのレンズを愛用したと言われています。

 

ですので、最終的には自分の眼で見た感じと同じ、もしくは自分が描きたい写真に合った画角を選べばそれでよいということになります。

それがその人の標準レンズと言えるでしょう。

 

ちなみにですが私は50mmを主に使っており、自分の標準レンズは50mmだと思っています。決してアンリに寄せた訳ではありません。

いろいろな画角のレンズも試してみましたが、50mmが一番しっくりときたのです。比較となる35mmレンズも何度も試しましたが50mmの方が試すたびに合っているなと実感するのです。

 

どうして自分には50mmの画角がしっくりくるのだろう。私なりにどうしてかを考えてみました。

ここで先ほどの35mmと50mmで撮った写真を並べてみます。

 

     

 

比べてみるとわかりますが、左の35mmの画角の方が広い範囲を写していることがわかります。

つまり写真の中の情報量が多いことになります。

右の50mmだと観葉植物とその周りのちょっとしたカーテンなどの情報しか入っていませんが、35mmとなるとテレビ台やテレビ、バスケットや床、その色味、質感など、多くの情報が散りばめられています。

 

ではなぜ私は50mmの方が自分に合っているのか。

おそらくは自分には35mmの画角の情報量が多すぎるのだと思い至りました。自分の中で写真にその構図がおさまったとき、あれもこれもと情報があると混乱してしまうのです。

おそらくは脳の情報処理の問題かと思います。いろいろな情報がありすぎると、自分の中で統合するのがむつかしかったり、主題に向き合うのに余計な情報があって、気が散ってしまったりするのです。自分と主体との向き合い方がシンプル(いい言葉ですね)であるからかもしれません。

 

自分の中ではそういった理由で今は50mmを標準レンズとして、ポートレート写真を主に撮っています。

自分の感覚にはこの焦点距離が一番合っていると思っています。でも先ほど何度も試したと書きましたが、35mmレンズへの憧れもあります。

上にも書きましたように、35mmレンズで撮った写真には情報が多く、人物を撮ったとしても、その背景にあるストーリーをより描けるからです。

軋んだような板の床の上で、縫い物をしている厚手の緑色の毛糸のセーターを着た女性が座っている風景。横には暖炉があり、犬が寝そべって彼女を見上げている。そんな風景はさまざまな空想を掻き立てます。

私にはもちろんそれを絵画で描く能力もないですし、上手に写真におさめる力も今のところなさそうです。でもとても憧れます。

 

ですので、私の標準レンズももしかしたらそのうち変わるかもしれません。

それは飽きっぽい性格のせいかも知れませんし、加齢により、自分の情報処理の能力が変化(向上する可能性はかなり低いとは思いますが)するかもしれませんので……。

 

長くなってしまいましたが、自分に合った画角を知るというのは、自分を知るということにもつながります。自分の感性、脳の機能と向き合い、自分に合った画角が見つかるといいですね。

長らく写真に関わってきた人も、最近写真にはまってきた人も、自分の画角について今一度思いをめぐらしてみるのも一興ですよ。

 

では楽しい写真生活を。